5月9日 MSNマネーのコラムにWacontre野原が執筆したベトナム情報コラム「ベトナム原子力発電所建設計画の行方」が掲載されました。
記事全文
ベトナム政府は「原発計画に変更なし」と発表
昨年10月の菅首相とベトナムのグエン・タン・ズン首相との首脳会談で、同国が南中部ニントゥアン省で計画している原子力発電所2基の建設を日本が受注することで合意しました。
それから数ヵ月後に日本で大震災、福島の原子力発電所の危機が起き、世界的に原子力エネルギーへの関心が高まっていますが、ベトナム での日本企業による原発建設への影響はあるのでしょうか?結論からいうと、ほとんど影響はないといえます。
まず、原発建設の是非についてですが、ベトナム政府は日本の震災、福島原発の危機発生から数日後には「原発計画に変更なし」の方針を発表しました。
ベトナム政府が発表している電力マスタープランによると、ベトナム国内の電力需要は2005年から20年までの間で年率10%増加し続けるため、需要逼迫が確実視されており、政府は原子力発電所原発の建設計画の予定を前倒して2014年着工、2021年には100万kW×4基、合計400万kWの原発を運転開始することを決定しています。
総発電量の3割以上を占める水力発電は 発電所の建設可能な水域が少なくなってきており、火力発電は資源価格の高騰やCO2の問題を考慮すると現在の計画から増やすのは困難です。ソーラー・風 力・地熱などの自然エネルギーはコスト面で採算がとれず実用化はまだ先になるため、原子力に頼らざるを得ないというのが現状です。
共産党一党独裁のもと国民の反対の声もない
技術的には、事故があった福島の原発が40年前の第2世代だったのに対し、今回ベトナムで建設予定の原発は福島と同じような災害に見舞われた場合でも全てが自動で制御される第三世代であり、国際原子力機構(IAEA)によって査定された安全な施設であると政府はアピールしています。
建設予定地のニントゥアン省では実地調査を重ね、地震がほとんどない同地域でも津波やその他の自然災害に対して万全の施策を講じるとしています。
原発に対する国民感情としても、現在恒常的に起きている電力不足による計画停電が緩和のためのものとなると反対の声はあまり聞かれません。4月上旬に日本方面から流れてきた雲がベトナムに到達した際には、雲に含まれる放射性物質が人体に影響を及ぼすレベルであるという報道が一部のメディアで報じられて混乱を招きました。
しかしながら、ベトナム科学技術省は複数の検証結果を挙げてこれらの報道を否定しており、関心はだいぶ薄まっている印象です。もっとも、共産党の一党独裁で経済成長を進めてきたベトナムでは国の方針は絶対であり、原子力に関する方針も貫かれる見込みです。
破格のメリットを提示して受注する日本の原発プロジェクト
では、現在受注がほぼ決定している日本の原発建設はどうなるのでしょうか?昨年はベトナム政府が日本側に要請していた南北高速鉄道の計画が国会審議で否決されるという事態が起きましたが、今回は首脳会談により合意に至っているため、これが覆されることはまず考えられません。
原子力発電所の建設・維持には、200万KWにつき1,000人の学位のある技術者が必要といわれており、ベトナム政府は技術者を日本やロシアなどに研修生として多数派遣しています。日本は日本原子力産業協会など多数の機関で100人以上のベトナム人技術者を受け入れており、密接な関係を築けているという事実があります。
また日本は1991年以来ベトナムに対する第一のODA供与国であり、今回の原発建設についての合意でも、日本側は低利の資金提供、原子力技術移転と人材育成、プロジェクトの全期間における廃棄物処理と燃料供給などベトナム側の求める条件を全て受け入れたようです。
多くの日系企業が参加して利益を分け合う構造ができている
これらの支援に対して採算が見込めるのかという疑問がありますが、原発産業は裾野が広く、様々な業界の企業が恩恵を受けるといわれています。また、メンテナンスでも長期的に利益が得られる産業です。
ベトナムでの受注を目指して結成された、国際原子力開発は東京電力や関西電力など国内の電力会社9社と日立・東芝・三菱重工の原発メーカー3社で構成されていますし、原子炉製造や土建工事、ウラン権益の取得もあります。
ホーチミンにあるタンソンニャット国際空港の建設で指揮を執った鹿島建設、ハロン湾のバイチャイ橋を手がけた清水建設や昨年900億円にも及ぶ火力発電所を単独受注した総合商社の丸紅など、ベトナムで活躍する多くの日系企業の参加も見込まれます。
以上のように、今後もベトナムの原発建設は日本の企業連合が進めていくことになると思われますが、プロジェクトの責任者であるグエン・ティエン・ニャン副首相が繰り返し述べている通り、最悪の事態に備えて万全の体制を整え、福島原発での事故を教訓として生かさなければならないでしょう。
株式会社Wacontre(ワコンチェ)代表 野原 弘平